Prologue


 

 ここ最近の一日としては、特段変化のない一日だった。

 今日という日もアルバイトに勤しみ、疲れ果てて帰宅する。それがここ最近の生活である。ただ、アルバイトにも慣れてきて、これでも疲れる度合いはマシになってきたりしていた。

 黒い髪に黒い瞳。そして黒縁眼鏡と、顔全体のイメージは黒一色。
 高校生の身の上では髪を染めることなんてできないのだから、まぁ、仕方のないこと。あえて校則に違反してまで染める気もない。

 そう、佐倉純太サクラジュンタは常々思っている。

 友人に言わせてみれば、それはただお洒落に興味が薄い、というだけらしいが、さもありなん。別にお洒落に対する情熱もこだわりもなかったりするので、その意見は正しい。

「それはそれで寂しいことかもしれないけど……」

 一応は健全なる高校二年生。
 寒くなり始めた季節。一緒に歩いてくれる相手を求めていない訳じゃない。好きな相手は…………まぁ、いないけど。

 道を進んでいる最中に考えたことに、自分でなんだかバカみたいな印象を受けた。始終おかしなことを考えている幼なじみでもあるまいし。

 と、純太はいつものように、何も変わらぬ時間を過ごしていた…………はずだった。

 ――その閃光を見るまでは。

「なっ!?」

 唐突だった。いきなりだった。それが現れたのは。

「嘘、だろ……?」

 不気味な光だ。明滅し、歪んだ円を描くように輝く、未知の発光体。

 触れれば掻き消えてしまいそうな、しかし強烈な光が網膜に焼き付く。それは十七年の時間の中、初めて目撃した超常現象だった。

 純太はそれに興味を持ってしまった。危ないと分かっていながら。

 ゴクリと息を呑みながら、そっと手を伸ばす。
 指先はゆっくりと光に近付いていき、触れる――と思えた瞬間、

「いやいや。普通に危険だろ、これ」


 野生の直感でも、前世からの危険通告でもない。ただ純粋に、未知であるからという理由で純太は押し留まった。

 一時の好奇心で全ての人生を棒に振るわけにもいくまい。興味はこれでもかというぐらい引かれるが、ぐっと我慢だ。

 手を戻し、さっさと家に戻ることを決める。

 いつか超常現象など存在しないと言い張る人間に、話題として出してやろう。普通に生きてきて、これからも普通に生きていく人生。たった一度だけだけど、こんな奇妙な体験をした、と。

 そうして純太は手を戻そうとするが、ある意味お約束というか……手は動かなかった。

 ヤバイと思った時には遅かった。ただそこで静止していたはずの光が、いきなり伸びてきたのである。

 手に絡みついてくる光。
 視界を埋め尽くす輝き。

 全てが真っ白に染まり、純太は――……


 ――――気が付くと、冷たい道路の上で倒れていた。










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