Prologue


 

 ――たとえばの考察をしてみよう。

 まずはおさらいを兼ねて紹介から。

 名前は佐倉純太。

 出身は地球の日本の観鞘市。可もなく不可もない普通の街に住む普通の高校生だった。

 髪は黒髪。瞳の色は黒。典型的な日本人の容姿をしていて、目が悪かったから――とは異なる理由から黒縁眼鏡を小学生の頃からかけ始めた。

 容姿のレベルでいうのなら中の上程度。もう少しおしゃれをすればもう少し上に見られるかも知れない。身長174センチで中肉中背。いわゆる不良という人種に学校では数えられていたが、本人としては善良な一般市民のつもりでいた。
 
 そうそう、佐倉純太を語る上で外せないのは、普遍的な彼がフィルター越しにいつも見られてしまう原因となった幼なじみ―― 宮田実篤の存在である。

 成績優秀容姿端麗と、出来が良すぎる男でありながら、その性格だけは神様に愛されなかった。 型にはまることを良しとせず、トラブルを好んで招き寄せ、さらにはこちらまでも喜々として巻き込んでくる完全無欠のトラブルメーカーだ。

 彼と出会ったことが佐倉純太の人生を決めたといってもいい。むしろ出会わなかったらどうなっていたかがわからないほどに、その幼なじみの存在は深い場所に根付いていた。

 そんな彼と関わってしまったのが運の尽きか、佐倉純太は大きな転機を迎える。

 即ち、現状の『異世界』へ、と。

 そこで出会った多くの人々の中、特に意識すべきは二人の少女か。

 ジュンタが初恋の相手として今なお恋愛感情を向け続けるリオン・シストラバスと、使徒という役割を担わされたサクラ・ジュンタの巫女であるクーヴェルシェン・リアーシラミリィ。

 この二人の少女を含め、猫になってついてきてくれたサネアツ。ここに多くの人々を加えたものが、一度全てを失ったサクラ・ジュンタの新たなる『日常』の形である。


 さぁ、ではここからは考察の本番だ。
 以上のことを踏まえて、どうすれば佐倉純太の日常を壊せるかを考えてみよう。


 シンキングタイムは――はいっ、終了。
 
 挙手は一人一回まで。ふざけた奴は死ね。
 これは命題。考えなければいけない、佐倉純太にとって一番大事なことである。冗談を抜かす奴はコトゴトクシネバイイ。

 歓迎すべきは狂った考え。最高の狂気に染まった答えを期待している。

 それでは手を挙げろサクラ・ジュンタ。安心するといい。お前はとうの昔に狂っている。ただ素直に思ったことを口にすれば、自ずとそれがセイカイニナル。

 サァ、ハヤクシロ。

 イツマデマタセルツモリダ。

 ケモノガウエヲガマンデキルハズガナイ。

 サッサトスベテヲクライツクシテシマエ。

 オマエハ、ショセンドラゴンナノダカラ!




 

 ジュンタは眼を覚ます。覚まして、今のが夢であったことに安堵する。

 だけど荒い心臓の動きは、あるはずないのに聞こえる『闇』の胎動が、悪夢は静かに現実へと侵蝕してきていることを教えていた。

「俺は、この日常を守りたい。壊したいなんて、思ってない」

 どうしようもなく恐い夜――
 ベッドの中に誓いを立てた双剣を持ち込んで、強く強く自分を保つために抱きしめる。

「俺なら大丈夫さ。俺は狂ったりなんかしない。俺は――……」

 異邦者。使徒。もう一人の佐倉純太。救世主候補。神獣。ドラゴン。

 今の自分を表す正解である答えはたくさんあって、だからこそ咄嗟に答えが出ない。

「……俺は、俺だ」

 ジュンタはそこで、抱きしめていた双剣の柄に額を打ち付けた。鈍い痛みが、陥りそうになった思考を晴らしてくれる。

「しかし……これで、眠れなくなってしまった」

 ジュンタは自分の中で渦巻く恐怖を未だ誰にも語ることができず、ただ眠れぬ夜を独り過ごしていた。









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