Prologue




――――そうか。お前が、俺の敵か」

 夕暮れをバックに、十年来の幼なじみはそう淡々と口にした。

 喜色はそこにはなく、悲哀もそこにはない。あくまでも静かに物語る眼差しには僅かな呆れだけが含まれていて、恐らく、また逆も然りなのだろう。自分が実篤に向ける眼差しも呆れていて、声音は酷く淡々としているに違いない。

 夏の終わりの夕焼け。幾度となく共に見上げた赤。
 今日もまた共に見上げ、だけど二人の影は隣に並ぶことなく離れていた。

「ああ。俺が、お前の敵だ」

 実篤は返答を欲してはいないとわかっていたけれど、純太は返した。万感の決意で。最悪の敵といっても過言ではない幼なじみと、敵対することを示した。

「そうか……」

 実篤の呟きは酷く静かだった。耳には、どこか寂しく聞こえる、校庭から響く陸上部のピストルの音。

「……どうして、こうなったんだろうな」

 火薬が炸裂して響くその音は、スタートを告げる音――純太はここにスタートを切り、ゴール地点を同じくする競争相手に背を向けて、返答を欲さぬ独り言をもらした。

 空が、どうしようもなく綺麗だった。

 だからなのだろう。実篤は屋上の手すりに掴まり、見上げていた空にニヒルな笑みを残して振り返る。

 背中を突き刺す、歩く道を違えた相手からの視線。自分たちの始まりはピストルの音ではなく、これがふさわしいと、実篤は告げた。

「そうだな。たぶん、それは――






 ――――そう、全ての始まりは、今日の昼まで遡る。










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